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介護付有料老人ホームの次の一手は?

S&Lとは「貯蓄貸付組合」のことで、この貯蓄貸付組合が一九八○年代に大きな問題を抱えてしまったのである(この問題の詳細については拙著「良い財政赤字悪い財政赤字』二三が貸す分野であって、銀行はそういうところに手を出さない。 ところが日本ではベンチャーキャピタリストを育ててこなかったこともあって、銀行にその期待が高まってしまって、あの銀行はお金を貸してくれないからけしからんとなる。
それはそういうキャピタリストを育てていかなければいけないのであって、その点、日本の場合は残念ながら大きく遅れが発生していると一言わねばならない。 その一方で、銀行員はサラリーマンだから、八社に一社しか成功しないところにお金を貸せるわけがない。
銀行員の立場で考えると、八社に一社は成功するということは、平均的にいって一社が成功する前に最低三社か四社は潰れていることになる。 それでも何とか一社でも成功すれば良かったということになるはずだが、おそらく日本のサラリーマン社会では、最初の一社が潰れたところでもうガタガタとあちこちから文句が出る。
二社潰れたら「おまえに自転車を一台やるから、田舎で預金でも集めてこい」と地方に回されるのがオチだ。 金融庁の検査官も黙ってはいないだろう。
これは普通のサラリーマンでは絶対にやっていけない世界なのである。 つまり、ベンチャーキャピタルのような行動を日本の銀行に期待するのはしょせん無理なのである。
アメリカでも銀行はベンチャーにお金を貸さない。 あれはベンチャーキャピタリストだろう。
アメリカ経済は元気を取り戻していった。 しかも、安いところで買った人たちはその後の資産価格の回復で大儲けしたことで、他の投資家も安心して参入し、そのことが資産価格の底を形成していったのである。
確かにそのような実例がアメリカにはあった。 問題は、これが日本の参考になるのかどうかという点である。
私は、これはまったく参考にならない例だと思う。 というのは、アメリカの貯蓄貸付組合という金融機関が持っていた全資産は、アメリカの全資産のわずか五%にすぎなかったからである。

五%のなかの一部が腐っただけであって、残りの九五%はまったく健全であった。 しかもこの時に金融不安と言われた問題は、S&Lという極めて特殊な金融機関にだけ発生した問題だった。
生命保険会社、商業銀行、投資信託などのその他の金融サービス業にはこのような問題はまったく発生していなかったのである。 九五%が健全で五%が腐っている時には、外科手術で五%分を摘出して売却してしまっても、九五%に問題があって五%が健全な時に、五%が問題で九五%が健全な時と同じ手法を使ったらどういうことになるか。
考えるまでもなく、経済は崩壊してしまうだろう。 九五%を売りに出して買い手が五%しかいなかったら、メチャクチャなことになるからである。
売却対象の資産が東京ならばまだ外国人の投資家が多少は入ってくるだろうが、地方ではそういう可能性九五%は健全なのだから患者は手術に耐えられる。 そうやって問題は解決されていった。
それでもこの手術は、米国の納税者に一六○○億ドルの負担を強いることになった。 九五%が健全で五%を売却しただけでも、一六○○億ドルもかかってしまったのである。
今の日本の状況はこれとはまったく逆である。 当時のアメリカでは五%が腐っていて九五%は健全だった。
ところが今の日本は全国的に資産価格が下がり、商業用不動産だけで八三%、ゴルフ会員権は九一%の価値が失われてしまった。 この資産価格の下落によって失われた日本国内の富は一三○○兆円に及ぶと言われている。

この国では資産価格の下落によって、それだけの富が失われている。 しかもそのかなりの部分は金融機関を直撃しているから、おそらく日本の金融機関の九五%は何らかの問題を抱えていると言えよう。
五%は健全かもしれないが、九五%は不良債権問題、格付けの問題、自己資本の問題など何らかの問題を抱えている。 そういう意味で私は、RTC方式は日本の状況にまったく参考にならないと言ったのである。
しかし、今のアメリカのオニール財務長官、リンゼー大統領補佐官やグリーンスパンFRB議長といった政府高官たちのなかで、残念ながら今の日本のような状況で政策対応を迫られた人は一人もいない。 彼らが覚えているのはS&Lのケースだけである。
そんな状況で、あと二、三年のうちに処理してしまえとやったら、いったい資産価格はどういうことになるのか。 今の水準からさらに暴落するだろう。
実際にこういうことが起きている。 ある地方都市の目抜き通りの一借り手が借金を返済できなくなり、銀行がそれを不良債権として清算することにした。
銀行はその資産を売却しようとしたが、誰も買い手が現れない。 九五%がバランスシートの問題を抱えているような世界だから、買い手が現れないのは当然である。
買い手が出ないので値段はどんどん下がっていく。 最後にやっと売れるのだが、その売れた値段で、同じ地域の他の借り手を再評価すると、すべてが不良債権になってしまう。
全部、極端な担保割れになってしまうのである。 今の日本の状況は、そのぐらい危険なのである。
五%が健全で九五%に問題があるという時、どんどん不良債権を売却してそれで問題を片づけてしまえというのは、極めて乱暴な議論ではアメリカで日本と同じような状況になったことはなかったかというと、近年では一九八二年の中南米債務危機という事態がそれに近い。 それまでの数年間、アメリカの全大手銀行を含む何百行という銀行がシンジケートを組んで、メキシコをはじめ、ブラジル、アルゼンチン、チリ、ベネズエラといった中南米の国々に大量にお金を貸していた。

よせばいいのに日本の大手銀行も入り、さらにカナダやアラブ、ヨーロッパなど世界中の大手銀行が中南米諸国への貸し出しに走った。 一九七○年代後半から八二年までのことである。
ところが一九八二年にイギリスとアルゼンチンが戦争を始めた。 フォークランド紛争である。
その結果、中南米融資に対するリスクが見直され、問題が一斉に噴き出してきた。 まずメキシコがお金を返せないということになり、続いてブラジル、アルゼンチン、ベネズエラ、チリなどが同時にデフォルトになるという、大変な危機が発生したのである。
当時、中南米諸国にお金を貸していた銀行の数は、全部足せばおそらく一○○○行単位になっていたのではないだろうか。 あの時アメリカには一万五○○○行の銀行があったが、大手銀うるさく言ってくるのだが、全然これは参考にならない。
あの時は五%の問題だった。 こちらの問題は九五%だから、同じ手法を使ったら大変なことになってしまうのである。

一九八二年の中南米債務危機が今の日本の状況に似ている。 この国際シンジケート・ローン市場の動向を米国金融当局で担当していたのは、アメリカのCであるニューヨーク連銀の国際金融調査部であり、その担当者はなんと私であった。
したがって当時のことはよく覚えているが、それはまさに自分の机が目の前で爆発したような状況だった。


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